2012年7月4日水曜日

ビバ!監督人生!!

ビバ!監督人生!!
2007年台湾

原題 情非得已生存之道 what on earth have I done wrong
監督・主演・脚本 鈕承澤( ニウ・チェンザー)
出演 張鈞甯(チャン・チュンニン)


台湾の映画人、鈕承澤( ニウ・チェンザー )は何者か? 日本の概念では定義しづらい。テレビドラマや映画を作ったり、自分も演じたり。日本で近いのはビートたけしだろうか。台湾の状況が日本ほど組織化されていないので個人力で突破するしかないように見える。それ故、彼の作品は、強烈な彼の存在感が漂わざるをえない。



しかし、単純に「かっこいい俺」を出してくるわけではない。そもそも役者に比べたらかっこいい風貌をしているわけでもない。自虐ネタを入れつつ、本職の役者の間に食い込んでくる役柄で出てくる。たとえば、登場人物の兄とか、主人公の勤める会社の社長とか、ヤクザのボスとか。
必ず一番おいしい脇役だ。そこが多分一番居心地がいいのだろう。


だがこの映画デビュー作では堂々たる主演。
やりたい放題の、自虐ネタ過積載の暴走トラックのような、この作品を紹介します。

映画仲間との馬鹿話の飲み会。楽しそうでうらやましい。 


この映画の登場人物は全員実名で役も自分自身を演じています。セットもなく、自分の事務所や、レストラン、誰かの自宅で撮影されている。恋人役の女優を除いてあとは全員関係者でおそらくノーギャラで出演していると思われる。

ドキュメンタリー風の嘘話のことのようです。

かなりいい加減な感じですが、創作意欲がある人だということは伝わってきます。

集めたスタッフの前で、なかなかのアジりですが…


金儲けのテレビドラマではなく「作品」を作りたいと言うのですが、どんな作品を作りたいのか、よくわからない。資金集めも厳しいものがあります。

実のお母さんにも金の無心をします。




とてもおしゃれな部屋に彼女と同棲しています。この人の作品の部屋の内装はいつもおしゃれ。

資金集めに苦労をして、飲みたくない酒を飲んで帰ってきました。

映画の撮影のふりをして、インタビュー中に背後から政治家のヅラをはぎ取れ、とスタッフに命令します。本当にどんな映画を撮りたいのか、本人すら分かっていない気がします。


危うしカツラ。ドキドキします。
ビビってカツラに手を出せなかったスタッフに切れまくります。


ここらあたりまでは、笑いで済んだのですが、激しすぎる性格ゆえ、うまく行かない状況にいらだち、トラブルを起こしてしまいます。
次から次へと難題がふりかかる。自業自得とも言えるが、気の毒だ。しかしそれ以上に気の毒なのは、この人の恋人。

浮気がばれますが、全く反省しません。 

いままで彼女に隠してきたことをカミングアウトするが… …
彼女にも去られ、映画制作も暗礁に乗り上げます。

引きこもりがちで、すっかりやる気を失ってしまいました。

リーダーを失ったスタッフたちはサボりにかかります。


結託して経費で 昼飯(鼎泰豊)に行くスタッフたち。
カミングアウトを進めたカウンセラーに文句を言いますが、時すでに遅し。


この映画に登場する女性は皆、しっかりしています。勝手な主人公に振り回される恋人も、自分を保っていますし、カウンセラーの女性も冷静にいいことを言う。母親も包容力がある。
この主人公、勝手で人を人とも思わぬところがあるが、人(主に女性)には恵まれている。創作する、という自分の役割にはとことん忠実なのでそこが憎めないのだろうか。
しかし男同士はそれほど甘くない。映画プロデューサーも海千山千で、資金集めを担当しつつも、他の仕事をしているし、付き合わざるを得ない金持ちの投資家もろくな奴がいない。

そんななか、唯一心を許せた男性、仲の良かったヤクザの幼なじみが死んでしまう。

どういう死に方なんだ


すべて失ってしまい、もう何がなんだかで自暴自棄になって途方に暮れる主人公。



母親が作ってくれたソバをすすりながら

母と四十過ぎの息子
絵面的には コントみたいですが、同年代の同性の僕も、この心情理解できなくはない。泣きそうになった。
しかし実のお母さんにこんなことをやらせて映画に出すなんて、ニウ・チェンザー。創作のためなら何でもやるんだな……


実のお母さん… …

そしてすっきりした状態で、またいろいろ再生していくと言う話。

散髪しました

政治について語ったり、台湾の状況について語ったり、家族や恋人のことを織り込んでいるのだが、ほとんど主人公のやりたい放題ぶりしか印象に残らない。
そこをどう取るかで評価も変わるだろう。僕はいたく感心した。低予算でこんなにおもしろいものがとれるのかと。
裸の自分をここまで出せる理由はただ一つ、創作したい、という魂のなせる技。僕はこの人の作品は信頼する、と心に決めた。



振り返ってみると「喪失と再生」という村上春樹的なテーマになっている。意識したのかどうかは分からないが。
※実際、村上春樹の本を読んでいるらしく、別ドラマ中や、彼自身のブログにも「海辺のカフカ」や「1Q84」が登場する。

デビューとしてはこれでいいんだろうが、次以降どうなるのか、刮目して待ちたい。




この映画の日本版DVDはもう一本別の映画とカップリングとなっています。もう一本の「練習曲」は別の監督の作品ですがこれもいずれ取り上げたいと思います。



ちなみにこの映画で、カツラをはぎ取られそうになった政治家、ついにカメラの前で、暴漢にはぎ取られたとテレビのニュースに!

1 件のコメント:


  1. この映画に出てたヒロインがチャンツィーがでてたアジエンスの広告に!→元ネタ
    張鈞甯(チャン・チュンニン)花王「アジエンス」のイメージタレントに!
    http://asian.cocolog-nifty.com/paradise/2013/01/post-4b29.html



    この映画は黒歴史になるんじゃないかな。

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