1993年台湾
原題 戯夢人生
英語題 The Puppetmaster
監督 侯孝賢(ホウ・シャオシェン)
脚本 朱天文(チュー・ティエンウェン)、呉念眞(ウー・ニエンジェン)
原作 李天祿(リー・ティエンルー)
出演者 李天祿(リー・ティエンルー)、林強(リン・チャン)、蔡振南(ツァイ・ジェンナン)、楊麗音(ヤン・リーイン)
撮影 李屏賓(リー・ピンビン)
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強烈な台湾語で大稲埕 や艋舺を語る |
この作品、DVD化されておらず、ヤフオクでVHSを買って見た。なかなか見られない侯孝賢ファンもいるだろうから一助となれば幸いである。
おじいちゃんが語ったことが映像化される。
このおじいちゃん(李天祿)(1910年12月2日-1998年8月13日)ということで、私(1969年生まれ)の祖父母の世代である。
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幼い頃は弁髪(辯髪)の時代 |
この世代は戦争のときは三十過ぎていて、多くは兵隊に取られなかった世代である。私の二人の祖父もそうだった。おじいちゃんが語る物語も、どこか私のおじいちゃんに似ている。子供をたくさん作るがうち、一人くらいは二歳になる前にあっさり亡くなる、など。昔語りをする姿が、もう亡くなってしまった二人の祖父を思い起こさせる。
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祖母の亡くなる話もマジックリアリズムのようである。 |
前半は子役が演じ、誕生から、独り立ちするまで。
後半は林強が演じている。ときどき李天祿本人が出てきて語る。
僕の半生の中でも,いろいろな大事件があった。しかしそれほど巻き込まれたわけではない。昭和天皇崩御。地下鉄サリン事件。二つの大きな地震。同時多発テロ。直接巻き込まれたものはない。
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今の台湾しか知らない僕にとっては日本統治があったと言うことすら神話 |
このおじいちゃんは、結構巻き込まれている。うちの祖父母もそうだったらしいが、詳しく聞かなかった。
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戦争が終わって疎開から帰ってきたとき、所持金五銭 |
このおじいちゃん(李天祿)の主人公は日本統治下の台湾に生まれ、家族のトラブルでの不幸と戦争での辛酸(疎開から帰ってきたら全財産五銭)でマラリアで家族二人を失う。非凡な人生といえるかもしれない。
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人形の動きがプロ |
布袋戲や芝居のシーンが多く登場するが、本物だけあって、なかなか見応えがある。
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父親も人形師、結婚相手も同業の一家だった |
言ってみれは人形劇なのだが、NHK教育でやっている人形劇も影響を受けたような節があるが、NHKとは一線を画すもののようだ。同じ演目をやり続けることによる熟練、手の動きの繊細さが違うのではないか。芝居に関しては北京で京劇を見たことがあるが、同じようなものが台湾でもあるのがおもしろい。
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戦争中は日本ものを演じる。なぜなら台湾も日本だったからだ。 |
前作「悲情城市」の出演者も多く重複しており、「悲情城市」の延長戦上の作品になるのかもしれないが、決定的に異なるのは、「悲情城市」が客観的な視点だったことに対し「戲夢人生」は主観の作品である。
李天祿の語ることのみを描いている。
しかし、語ったことと映像化するとこんなに、神話のようになってしまうのかと。
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酔っ払いの日本人と乱闘したという。これも神話のようだ。 |
継母(楊麗音)は徹底的にイヤな奴、として描かれる。
おじいちゃんの昔話を映像化、なのでおじいちゃんが見た以上の隠れた人間性などは、表現されていない。とても優しい弁髪の祖父しかり、継母しかり、酔っ払いの日本人しかり、親切な日本人課長しかり。
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次男を一歳でマラリアで亡くす。板を買ってきて棺桶を作る |
僕が八十を過ぎて人生を語ったら、どうなんだろうか。それはそれで新世代から見ると、神話なのかもしれない。
ラストで語った台湾人が飛行場に集まる話、語ったあとに映像で示される。これも神話のよう。
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日本軍がうち捨てた飛行機を解体して古物商に売る |
自分の話をここまで金と労力と才能をつぎ込んで映像化してもらった、このおじいちゃん、できあがりを見てどう思ったのだろうか?
「ちょっと事実と違うけどうれしいわ」かな?
「なんか、モテた話とかちょっと話、盛りすぎだった」かな?
「生ぬるいわ。ワシの人生もっと強烈やってんけどなあ」か?
自分の人生を忠実に映画化してもらえるなど、滅多にないことなので是非きいてみたい。
また「悲情城市」(1989)「戲夢人生」(1993)「好男好女」(1995)を三本見て、やっと難解で眠りそうなる「好男好女」のことが少し分かった。また「ホウ・シャオシェンのレッド・バルーン」(2007)にも布袋戲が少し出てきている。
人形劇や芝居の音響も強烈である。「憂鬱な楽園」や
「ミレニアム・マンボ」のハウスやハードコアにも負けていない。「悲情城市」はテーマ音楽がひどかったが、これ以降の作品、そのような失敗はない。強烈な音楽を伴った作品ばかりだ。